静岡地方裁判所富士支部 昭和63年(ワ)9号 判決 1988年12月23日
原告
大勝運輸有限会社
被告
衣浦南陸運株式会社
ほか一名
主文
被告らは原告に対し、連帯して金二一四万三六八〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
この判決第一項は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは原告に対し、連帯して金七四八万〇〇一〇円及びこれに対する昭和六二年一〇月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに第一項に対する仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告は貨物自動車運送事業を営み、後記被害車両の所有者である。被告衣浦南陸運株式会社(以下「被告会社」という。)も貨物自動車運送事業を営む業者であり、後記加害車両を所有し、被告横田正夫(以下「被告横田」という。)を従業員として雇用して同人を加害車両の運転手として貨物運送業務に従事させていたものである。
2 本件事故の発生
原告所有の後記被害車両は、左記交通事故によつて大破するに至つた。
記
(1) 事故日時 昭和六二年一〇月二四日午前五時二〇分ころ
(2) 事故現場 岐阜県多治見市富士見町二丁目三四番地国道一九号線路上
(3) 加害車両 被告横田運転の普通貨物自動車(三河一一き二五六一)
(4) 被害車両 原告所有の大型貨物トレーラー(沼津一一く一六二三)
(5) 事故態様 被告横田運転の普通貨物自動車が、事故現場付近の国道において中央線を越えて走行したことにより、対向車線を走行中の被害車両と正面衝突した。
3 被告らの責任原因
(1) 被告横田は、被告会社の業務として加害車両を運転していた者であるから、本件事故現場付近の国道が下り坂で、かつ、上下二車線の通行区分となつていた道路状況に照らし、対向車線に進入しないよう徐行運転すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、全く徐行することなく進行した過失により、加害車両を制動できないまま中央線を越えて対向車線に進入し、被害車両と正面衝突して本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の賠償責任がある。
(2) 被告会社は、被告横田を従業員として、自社の運送業務に従事させ、かつ事故当日の運転も会社の業務として従事させていたものであるから、使用者としての責任がある。
4 損害
(1) 被害車両の修理代 金三五九万九九二〇円
仮に被害車両が全損であるとすると、被害車両の事故時における時価額は金一一五万円と認められるから、同額の損害が発生している。
更に、原告会社の如く陸上運送を業として営業上車両を稼動している場合には、代替車両の再取得は不可避であるし、その取得は本件事故によつて余儀なくされるのであるから、その代替車両の取得に要する登録諸費用の出捐もまた損害となる。被害車両の代替車両の取得には、金五九万円の登録諸費用を要するから、これが本件事故による損害額に加算さるべきである。よつて、被害車両が全損とした場合にも、その損害額は金一七四万円である。
(2) 被害車両の回送費用 金四〇万〇〇九〇円
右内訳は次のとおりである。
<1> 事故現場から多治見市内までの回送費 金一六万〇八二〇円
<2> 多治見市内から静岡県富士市内までの回送費 金二三万九二七〇円
(3) 休車補償費 金三四八万円
但し、被害車両の修理期間を六〇日とし、被害車両が一日稼動することによつて取得する利益額を金五万八〇〇〇円相当と見積つた。
仮に被害車両が全損であるとすると、被害車両は営業用車両であるから、少なくも代替車両取得までの間の操業の継続によつて取得しえたであろう営業利益が原告会社の損害となるので、これが補償さるべきである。
<1> 本件被害車両の一日当たり利益額について
(イ) 売上高
被害車両の本件事故に至る以前の過去六か月間の売上高は、一日平均金六万八五一五円である。
(ロ) 経費
前項の売上に対する経費としては、燃料費、タイヤ消耗費、修繕費が認められるが、被害車両にかかる右経費の一日平均額は、合計金一万〇三三〇円である。
(ハ) 人件費
被害車両にかかる前記の過去六か月間の人件費の平均日給額は、金一万四八八六円である。
(ニ) 利益額
その結果、被害車両の利益額は、前記売上高から経費と人件費を控除した一日当たり金四万三二九九円となるが、人件費を支給したにもかかわらず代替車両の取得がえられずに稼動ができなかつた期間については、一日当たり金一万四八八六円の人件費の支払いを無為に余儀なくされていることとなるから、これも原告の損害となる。
<2> 代替車両の取得に必要な期間は、平均的には四〇日間を要する。
<3> 原告は、被害車両の運転手に事故後三週間(二一日)は賃金を支給していない。
<4> その結果、被害車両の休車補償額は次のとおりである。
(ⅰ) 代替車両取得までの間の喪失利益額
四〇日×四万三二九九円=一七三万一九六〇円
(ⅱ) 代替車両の取得がないのに運転手に賃金の支給を余儀なくされた一九日間の人件費の出捐
一九日×一万四八八六円=二八万二八三四円
(ⅲ) 右(1)と(2)の合計は金二〇一万四七九四円となる。
5 よつて、原告は被告らに対し、損害賠償として請求の趣旨記載の金員の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1ないし3の事実はいずれも認める。
2(1) 同4(一)の事実は争う。
原告の被害車両は経済的な全捐であり、従つて損害額はその時価に制限されるところ、事故時の時価は多くとも金一一五万円を上回ることはない。被害車両にはなおスクラツプ価格として金五万円の価値が残存しているから、結局損害額は金一一〇万円以下である。
代替車両の取得に要する登録諸費用については、何年か先に支払えば足りたのを本件事故時に支払う必要になつたにとどまるから、その間の利息相当額が損害となりうるにすぎない。
(2) 同(2)の事実は認める
(3) 同(3)の事実は争う。
被害車両は全損であるから、修理期間でなく、車両購入で算定すべきであり、その期間は二〇日が相当である。
原告会社作成の一般区域貨物自動車運送事業輸送実績報告書・概要報告書(昭和六二年三月三一日現在、昭和六三年三月三一日現在)、貨物自動車運送事業営業報告書(昭和六一年全期、昭和六二年全期)によれば、原告の実働車一日一車当たりの売上高は多くても金五万〇二〇五円であり、経費は少くとも売上高の六七・九パーセント(利益率三二・一パーセント)であるので、一日一車当たりの純利益額は金一万七七二〇円になる。そして、代替車両購入に必要な二〇日間に稼動率(事故前一八三日のうち一四九日稼動)を乗じて得た原告の休車損害は金二八万〇四一三円にとどまる。
なお、本件で人件費を控除しない理由はない。なぜなら、事故にあつた運転手は、二回の通院のみで治癒しており(九日間の休業補償で示談が成立している。)、早期に仕事に復帰しているからであり、仕事もないのに原告が給与のみ払い続けた事実はない(休業の九日分についても給与は支給されなかつた)。原告の保有車両は一八台で、その内四台は台車、残り一四台がトラツクとトラクターである。運転手は一〇名。かくて運転手が遊ぶこともない。車両運行による輸送の利益をあげるためには運転手への人件費が不可欠であること当然であり、本件では人件費を経費として控除しない理由はない。
第三証拠
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求の原因1ないし3の事実(当事者、本件事故の発生、被告らの責任原因)はいずれも当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正なものと認められる乙第一号証、証人大石一郎、同篠田四郎の各証言、原告代表者本人尋問の結果によれば、被害車両である原告所有の大型貨物トレーラーは、取りはずし可能な貨物積載用台車を連結して走行する大型貨物自動車であつて、運転台部分はトラクター、台車部分はトレーラーと一般に呼ばれるが、本件事故当時、被害車両のトラクターはトレーラーを連結して走行していたこと、しかし、本件事故により大破したのは厳密にはトラクター部分のみであつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。
二 そこで、原告主張の損害について判断する。
1 被害車両の修理代 金一一〇万円
前記一の争いのない事実、ないし認定事実、前記乙第一号証、成立に争いのない甲第二号証、証人大石一郎の証言によれば、本件事故により大破した被害車両のトラクターの修理費用として金三五九万九九二〇円を要すると見積られていること、他方、右車両は昭和五四年に初度登録され、本件事故までに八年間使用された中古自動車であり、本件事故前に右車両と同種同等の車両を取得するのに必要な金額は金一一五万円であり、本件事故後の右車両のスクラツプ価格は金五万円であることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。そうして、右認定事実によれば、右被害車両のトラクターは、特段の事情の認められない本件において、経済的に全捐の状態になつたものというべきであるから、事故前の右時価相当額一一五万円からスクラツプ代五万円を控除した残金一一〇万円が原告の被害車両破損による損害になるものと認められる。
次に、原告は、被害車両が全損であれば、その代替車両の取得に要する登録諸費用五九万円が本件事故による損害になる旨主張するので検討するに、右主張は、代替車両として中古車ではなく、新車を購入することを前提にしたものと解されるところ、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は貨物自動車運送事業を営む会社である(この点は争いがない。)が、本件事故後一年余り経つた現在に至るまで、被害車両のトラクターの代替車両として、新車はもとより、中古車をも購入していないことが認められ、右認定に反する証拠はない。
しかして、本件のように新車又は新車同然の車両が被害にあつたものでなく、八年間使用の中古車両が被害にあつたときの車両所有者の損害は、車両自体の損害が事故前の当該車両の価格によるべきであるのはもとより、代替車両の取得に伴う諸費用についても、被害車両と同種同等の中古車を購入するに通常伴う費用に限られるものというべきであり、殊に事故後一年余り経過しても代替車両を購入していない本件のような場合には、原告主張のように新車の再取得が不可避であるとして新車の購入に伴い発生することありうる登録諸費用が本件事故と相当因果関係のある損害になるものとはにわかに認めることはできない。また、仮に原告が新車による買い換えを通例としているとしても、そうであれば、被害車両はいずれ新車に買い換えられ、その際に必ず登録諸費用の支払を要することになるものであるから、新車購入に伴う登録諸費用自体を本件事故による損害と認めることはやはりできないといわざるをえない。
2 被害車両の回送費用 金四〇万〇〇九〇円
請求の原因4(2)の事実は当事者間に争いがない。
3 休車補償費 金六四万三五九〇円
被害車両のトラクターが全損状態になつたことは前記認定のとおりであるから、休車補償費の算定にあたり、修理期間を基準として考えるのは相当ではない。また、本件事故により大破したのはトラクターのみであることは前記のとおりであるが、原告代表者本人尋問の結果によれば、右トラクターは原告の営業用車両で、トレーラーを連結して使用するのが常態であり、本件事故当時に連結されていたトレーラーは本件事故で使用不能の破損状態になつたものではないが、右トラクターが使用不能になつたことにより、いわば余つた状態になつて、利用することができなくなつたことが認められるから、休車補償費の算定にあたつての被害車両にはトラクターのほか、トレーラーを含めて考え、代替車両取得までの間、トレーラー付きトラクターたる被害車両の操業を継続していれば得られたはずの営業利益が原告の休車損害になるものというべきである。
(1) 被害車両の一日当たり利益額
(イ) 売上高
原告代表者本人尋問の結果により真正なものと認められる甲第五号証、第六号証の一、二及び同尋問の結果によれば、被害車両(前記のようにトレーラーを含む。)の本件事故前六か月(昭和六〇年四月一日から同年九月三〇日までの暦日一八三日、稼働日数一四九日)の売上高は金一〇二〇万八八二〇円で、一日平均金五万五七八五円であると認められる。
乙第四号証の一、二中の実働車一日一車当たりの営業収入欄の金額は右より一、二割低いものになつているが、右収入欄の金額は原告保有の十数台の実在車両についての平均値を現わしたものにすぎないので、右認定を妨げるものとはいえない。
(ロ) 経費
休車補償の算定にあたつては、固定経費(ただし、人件費については後記のとおり)を控除する必要はないが、燃料費、修繕費等の変動経費を売上高から控除すべきものであるところ、成立に争いのない乙第五号証の二によれば、原告の昭和六二年全期における、一般管理費を除いた運送費のうち、燃料費は売上高の九・三パーセント、修繕費は八・二パーセント、道路使用料は八・一パーセント、その他経費は一四・二パーセント(小計三九・六パーセント)を占めていることが認められるから、人件費以外の経費として一日金二万二〇九〇円(五万五七八五円×〇・三九六)を前記売上高から控除すべきである。前記甲第五号証記載の経費は、右乙第五号証の二と対比しにわかに措信できず、その経費記載部分は採用し難い。
(ハ) 人件費
運送費である運転手の給料は一般的には固定経費というべきであるが、事故にあつた運転手が休業補償を得、使用者が給料の支払を免れたときにはその分を売上高から控除すべきであるところ、成立に争いのない甲第九号証及び原告代表者本人尋問の結果によれば、原告は本件事故にあつた原告の運転手福沢光久に事故後三週間(二一日間)の給料の支払をしていないこと、右福沢の事故前六か月間(昭和六二年四月一日から同年九月三〇日まで)の給料総額は二二四万〇三九二円(一日平均金一万二二四二円)であることが認められるから、まず右不支給分は前記売上高から控除すべきである。
次に、原告は、前記二一日間をこえる日数について人件費の支払を無為に余儀なくされた旨主張するところ、原告代表者本人尋問の結果によれば、原告会社は、本件事故前、トラクターを被害車両を含め四台、トレーラー(台車)を五台、普通貨物トラツク一〇台を保有していたが、雇用していた運転手は右車両数より少ない一〇名であつたこと、原告は本件事故後現在に至るまで被害車両の代替車両を購入していないことが認められ、右事実によれば、原告は本件事故後も、トレーラーを別にして、三台の予備車両を有していたものであり、前記福沢は、前記二一日間の経過後に被害車両以外の他の車両に乗務することが可能であつたものと推認されるので、これを否定する具体的な証拠のない本件においては原告の前記主張事実をにわかに認めることはでないというべきである。
(2) 代替車両を取得するに必要な期間
成立に争いのない乙第六号証、証人篠田四郎の証言により真正なものと認められる甲第八号証、証人篠田四郎の証言及び被告会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、被害車両のトラクターと同一の型式の車両は現在生産されていないが、同種同等の車両は生産されており、その新車の日野トラクター(PISH六九一AA型)は八八四万円位の価額がすること、右同種同等の車両について自動車販売会社に注文後、通常の装備をしたのち顧客に納車されるまでの日数は、在庫があれば(少くとも、名古屋市所在の愛知日野自動車株式会社には事故当時在庫があつた。)、通常二〇日程度であることが認められるが、注文に先き立ち被害車両が全損かどうかを調査したり、購入する自動車の種類、型式や新車、中古車の別を確定したり、資金を確保したりすることなどが必要であるので、代替車両を取得するに必要な期間は三〇日間と認めるのが相当である。
(3) それゆえ、原告の休車損は金六四万三五九〇円(二万一四五三円×三〇日)となる。
4 したがつて、被告らは原告に対し、連帯して金二一四万三六八〇円及びこれに対する損害発生後である昭和六二年一〇月二四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
三 よつて、原告の請求は右金員の支払を求める限度において理由があるからこれを認容するが、その余は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 榎本克巳)